アスファルト


何もないだだっ広い場所のところどころで、まだアスファルトが冷えきってないので、あまり不用意に歩き回って勢いよく体重をかけると、ぐっと沈み込む。いずれにせよ、思い切りジャンプしてもさすがにあの高さには届かないが。雨で黒光りする路面のあちらこちらから白い湯気がもくもくとのぼっていて、たちこめる油の匂いで意識が薄っすら遠のきそう。路面に縦横無尽に引かれていた白い線はすでに半分以上かすれて消えかかっている。消えたところがまるで別の意味に見える。右手を見ながら小刻みにステップして左端の方へ移動する。朝になると運搬用のトラックが何度も通り抜ける箇所のタイヤの部分だけがぐっとへこんでいるので、そこを歩いて渡るとき足が上下の感触を上手く感じ取り、左右のバランスを調整して動く。脚の動きに応じて自分の身体がゆるやかに上下する。そして足の裏に熱さを感じる。加熱アスファルト混合物は液体だから普通は安定していて、百何十度に温めると溶ける。いま、たしかにそういう風に安定へと向かっているのかもしれない。ばかでかいカメラを向けられたので振り向く。自分の背後に空間が広がっていて、ずっと先の向こうの方まで行き止まる事無く続いているので、たぶん僕はその空間を背後に感じた表情かもしれない。なおもカメラの方を向いたまま、足元のゆるい凹凸に足をとられてバランスを崩さないように気をつけながら、ゆっくりと後ずさりしていく。