直立


ものすごく蒸し暑い日。台風が高気圧に圧されてぐっとこちら側に押し付けられていて密着してくるので身体の熱が直に伝わってくる。満員なのである程度仕方がないのでみんな我慢しているのだけれども。座席が空いても座りたくない。座ると、ものすごく暖かいから。前の人の体温がそのまましっかりとシートに残っている。いやたぶん体温以上の熱だと思う。手で触れられないくらいの熱。あ!っと思ってびっくりするくらい熱いときがある。あるいは太股の裏側の、座席に密着する部分に妙な粘りというか、不気味な感触が残っている事もある。べったりと、何か作業でもしてたのか、粘着液を撒いてアイロンでもかけてたのかというような、あぁ、まずい箇所に座ってしまった、と、そんなときは思う。何かよくわからないものが太股の裏側前面にべったりと貼り付いているような、もうどうしようもないような感覚。そういうとき、わーーっと声を上げたくなるときもあるけど、ふと見ると傍らに、リクルートスーツの小さな可愛い子が黙って吊革に掴まってじっと窓の外を見てたりするのを見て、はっとして、ああ、偉いな、あんな小さい子も、ああして働きに出て、皆と同じように黙って、あんなふうにちゃんとして、じっと耐えてるんだから、俺もちょっとは、ちゃんとしなければ、と思いなおして、若い子を見習って背筋を伸ばして、ふんっと鼻息を漏らして、なんだかよくわからないけど妙に立派そうな感じでしゃんとして立って窓の外を見ている。