黒い門


歩いていると腕や足や顔に、生温い点々の感触が感じられて、目には見えないのだが、おそらくそれは極小な粒の雨が降っていて、自分の素肌にあたっているようなのだ。昨日は一度、今日は二度出かけたが、いずれもそれを感じた。しかし天気としては、二日通じて曇りであって、雨は降ってないし、勿論傘を挿す必要もなかったのだが、腕や足に感じたそれは、雨とは言えないくらい微量な雨だった。たぶん降ったり止んだりするような雨ではなく、濃くなったり薄くなったり、濃度の変わるような雨だったかもしれない。しかし、霧状になって大気中に満ちていたのではなく、たしかに落下もしていた。肌への当たり方を鑑みても、水滴状の雨が落下した事実を認めない訳にはいかない。


そんな状態の中、外を歩いていて、誰も住んでない朽ちかけた空き家がある地点に来て、ふとその方向を見やると、道路に面して黒く塗られた鉄の門があった。門は閉まっているが、長年雨ざらしだったせいか猛烈に錆びていて全体的に傾いでおり、少し触れば砂のようにぼろぼろと崩れてしまいそうなほど朽ちきっているように見える。おそらくもはや門の役目は果たしていない。門の黒い色は、黒色のペンキが鉄の表面に塗られているのだが、錆びはそのペンキのひび割れや欠けや塗りの隙間を突き破って表面に吹き出てきてそのまま自分の範囲を広げていて、色としては赤い方が優勢である。黒ではなく半分以上赤茶けた赤い門である。黒と赤茶色の二色が活発に交じり合う門という感じ。一瞬、赤い門だと最初に思わなかったか。最初に赤かった門が、じょじょに黒くなったとは思わなかったが、色としては赤も黒も同時の門という感じで、錆びて朽ちていることに後から気付いて、気付いた途端忘れてしまったが、赤と黒が一瞬自分の目の中でひっくり返っていた。