東横線


 代官山を歩いていた。休日の、こざっぱりした格好の、男や女や、カップルとか、でかいベビーカーをガラガラと押した夫婦とか、やたらといっぱい行き交う。なんとも浮ついた感じの雰囲気のなか、ふと前方を見ると、店の軒先にものすごく場違いな感じで、国旗が掲げられていた。あ、今日って祝日だな。と言ったら、妻が、そうだよ、だから今日は、夕刊はこないよ、と言う。

 そのとき、祐天寺の店を思い出した。祐天寺の店は、月曜から土曜までが夕方五時からの開店なので、今日はやってないと思っていたのだが、日曜祝日なら、午後二時からやるのだ。

 よし、じゃあ行こうよと言う。行くの?と妻。あまり乗り気ではない。そう、ぜひ行こう。行こうよ行こうよと僕。強情に言い張る。ほんとうに?と妻。やはり、乗り気ではない。僕も、じゃあ、それならやっぱり、どっちでもいいや、と思って、やっぱり、大手町の丸善にでも行くか、となって、うん、そうしよう。となって、東横線の階段を上った。

 でもホームの階段を上がる途中で、やっぱり行きたくなってきた。やっぱり、祐天寺行った方が良くない?せっかくだし、みたいなことを、再びしつこく、僕が言い出したので、妻も、そんなに言うなら、これは仕方がない、という感じで、そんなに言うなら、別にいいよ、いいけど、と言うので、よし、じゃあ、決まった!もう行こう。行くことに決定!となった。祐天寺確定で、今来た階段を降りて、反対側のホームへ向かった。

 でも、優柔不断だとこうして、結果的には何度も階段を上り下りすることになるから、やっぱり優柔不断は良くないことだと思うが、でも、駅で何度も階段を上り下りするのは愉快だと思う人も、世の中にはいるだろう。結果的に、何度も階段を上り下りすることになって今日はラッキーだった、などと思う風潮も、この世のどこかにはあるかもしれない。

 そんな、どうでもいいことを、ホームへの階段を上りながら考えていたら、ホームに電車が入ってきた。東横線、渋谷行き。次の停車駅は、渋谷。間違えた!ごめん、この方面じゃないわ。間違えた間違えた!やっぱ向こうのホームだった。やっぱ中目黒方面行きで良かったのか。中目黒の次が祐天寺だった。ごめんねー。と言って、ふたたび階段を降りて反対側のホームに向かい、結局また、最初に来たほうの階段を昇る。毎日乗ってる路線なのに、だからなおさらなのか、意外に、勘違いするね、意外と間違うものだな、うそでしょ、普通は、間違わないでしょ、などと話した。