SUICA


桜木町で通勤定期を買う。SUICAの定期である。これを持って、いよいよ僕もJR陣営の人間になったという実感がわく。それまではずっとPASMOで、SUICAを持っている人々との思想や感覚や文化的な違いというものを無意識に意識して生活してきたはずが、こうしていともあっけなく、SUICA陣営に寝返ることができてしまって、そのまま平然とJRに乗り込もうとしている自分という存在が、如何にもあっけなくて、薄っぺらく浅はかで、しかし大した罪もなく、小粒で取るに足らない、吹けば飛ぶような、ちっぽけでささいなはかないものに思いながら、京浜東北線に乗って、過ぎ行く駅名をぼんやりと眺めていた。鶴見、川崎、蒲田、大森…このあたり、まさに外国という感じがする。でも、こうして暮行く空のしたを、またいつか、これらのうちのどれかの駅に、僕が降り立つときが来て、そのときこれがひとつの、新たなドラマの幕開けということかもしれないとも思う。