露天風呂


 金甌日の朝から出かけて、北千住発のロマンスカーで箱根。翌日は真鶴に寄って、小田原から夜になって帰ってきた。翌日の日曜は一日中ぽけーっとしていた。旅行中も、だいたいポケーッとしていただけ。温泉入って、のんで、食べて、すぐ寝て、起きてまた温泉入った。なんだか、こうやってひたすら、ぽやーんとしてるだけで、何もしないままだなあ、と言ったら、まあ、それが、旅行ってことじゃない?と言われて、まあ、そうかもなあ、とも思ったが、それにしても、今まで以上に、ずいぶんぽやーんとした二日間だった。大体雨だったが、しかし雨ばかりという訳でもなく、意外と降ってない時間も多かったし、かなり晴天の時間も僅かながらあったし、濃い霧が立ち込めている時間もあった。天気として、これは面白かった。

 ここの温泉は、大抵空いている。誰もいない事も多いし、居ても一人か二人くらい。朝はもうちょっとたくさん居たかも。僕は大体、露天風呂のところで、全身を外の風に晒したまま、何十分でもその場にじーっとしていて、遠くで揺れている草木をひたすら見つめている。これは僕だけでなく、露天風呂に居る人は、皆そうやっている。やがて、雨がまた降り出してきて、最初小雨だったのが、次第に大粒の雨になり雨脚も強まってきて、素っ裸の身体の腕や肩や背中や足に、その雨がどんどん落ちてくる。雨の独特の生温かさは、雨の温度ではなくて、体温なのだろうか。額から流れてくる雨なのか汗なのかわからない水滴の、苛立たせるような生易しい感触。裸で雨に打たれているのが、面白いので、じっとそのままでいる。僕だけでなく、皆そのように、じっとしているのだ。素肌に雨の当たるのを、黙って感じている。木々が雨に打たれて、小刻みに揺れ、頭を揺らすようにしなって、そのたびに雨粒がぱらぱらとこぼれ落ちる。葉が水に濡れて艶々とした光沢を反射させている。雨の降る音の騒がしさ、辺り一帯が音に満ちる。半分枯れた葉がぱらぱらと落ちてきてお湯に浮かび、やがて沈む。頭髪が完全に雨に濡れてしまって冷たく重く濡れてしまっている。全身が冷えかかってきたので、身体をふたたび湯に沈めることにして、どん、と湯に入る。身体の表面にまとわりついていたものが瞬時になくなって、全体が、お湯の熱にほぐれて、内側から崩れていきそうになる。