苔をみる。やはり苔は、実際に目で見ないとだめだ。さいきん、苔が苔が、と騒いでいたら、いろいろと親切に苔にかんする情報を教えてもらったりして、苔の本を買ってみたりもしたのだが、あまりろくに読んでもいないし、ちょっとみただけで放ってあるのはなぜなのか自分でもわからなかったが、今日、護国院の地面で苔を見下ろしていて、やはりこうして、実物を見ないとまったく意味がないとあらためて思った。なにしろ苔ほど、写真に撮ってつまらないものはない。ゆえに、本の図版をみてもつまらなくて、脇に掲載されている文字情報にも興味が向かない。この、不思議なほどの、写真への写らなさが、逆に苔の凄さを物語るといえよう。とにかく、そのくらい、苔が実物としてたたえている表情というか、色合い、触感、奥行き感、空間というのは、現実的に深くて、そして暗い。見たいものとは、この見えなさである。