朝顔


家に今、観葉植物のパキラとストレチアがいて、半月かそこら前に、とつぜんストレチアの鉢に、縦に亀裂が走って、これはもう植え替えしないと、と思ってパキもストも、どちらも大きめの鉢を買ってきて植え替えした。それでパキラの旧鉢が余ったので、それには朝顔の種を買ってきたのを埋めた。まるで全部自分がやったことのように書いているが、ほとんど妻がやった。僕はちょっと手伝っただけ。で、その朝顔だが、成長がすごく早い。観葉植物たちももう二年か三年前から家にいるので、たまに小さな葉を出してそれが一週間くらいかけて少しずつ大きくなっていく過程は見られるので、それだってけっこう早い成長だと思っていたが、朝顔はそんなレベルのスピードではなくて、数日で芽が出てきて、さらに数日で双葉となり、すーっと背が高くなり、葉を増やし、ひょろひょろと頼りなくもぐんぐん背丈が伸びていくほどで、見ていて呆気にとられるような感じだが、とにかくこの状態だと、なるべく早めに、弦が巻き付くための棒がいると妻が言い出し、いやいや、さすがにそれはまだ随分先じゃないの?と思ったが、まあいいや、それじゃあ一応用意しようかということになって、百円ショップの園芸品売り場に普通に売ってるのを買ってきて、三本の支柱を鉢に挿したら、なんと翌日か翌々日にはもう各支柱に弦が巻きつき始めている。それも二巻きか三巻きかそれ以上だ。ちょっと、このスピード感にはなにか、周囲を醒めさせるものがある。これ、もしかしてじっと見ていたら、動く様を肉眼で見れるのではないかという、そのくらいのスピードである。で、また数日経ったら、もう支柱のほぼ上端近くまで、弦が巻きついていて、たぶんこいつ、一番最初から、絶対に支柱が挿されたことに気付いてたし、どれに巻き付こうかをガツガツと考えて、朝方にはもう行動を開始していたのだろう。なんだろう、このやる気。動物にエサ上げてるみたいな反応の手応え。こちらへのフィードバックレベルが植物の範疇を微妙に越えていて不気味というか、でも飼い主に媚びを売る気があるわけでもない、性格はあるけど、目的や好みは無い、みたいな。遠慮とか恥じらいとかももちろん無く、でも自意識はあるらしく、知的とは言えないけど完全な馬鹿と断定もし辛いかも、みたいな。ただガツガツと栄養を取って成長一直線な、なんとなく深いエゴイズムの、自己生成に対する一定のモティベーションを保持し続けて何の疑いももたないヤツの物腰や所作の鬱陶しさというか。このあと仮に、数日後か数週間後に、もしきれいな花が咲いても、この短期間でもう、楽屋とか舞台裏での態度をさんざん見てしまったので、むしろステージ上の姿だけで君を知っていたかったと、あとで思うかもしれない。