店(雨の日の為に)


ここぞとばかりにセミが鳴いている…。さあ、いよいよ夏が来るのかと思うが、もう既に夏である。


わたしはいつもこうで。


傘を挿しながら、ああそろそろ梅雨だな、と思うが、もう充分に梅雨だし、今だってそうだ。このまま秋にも冬にも気付かないのか。人に言われないとわからないのだ。


あぁ、昔みたいに、ヒマな店でバイトしたい。


ぼけーっとしたい。


いや、だから今もそうじゃないの。いや、今あなた、ぼけーっとしてたじゃないの。


たまに、夜に行く店が、ドアを開けて店内がヒマそうだと、店主もなんとなく機嫌悪そうに見えて、昔、よくNさんも「あーーー!!!ヒマだ!」と言って客が一人もいない店内をウロウロしていた。


でも、客とバイトにとっては、ヒマな店は快適だ。窓の外が夜になって、看板の電気の光が庇の裏を照らすのがなつかしい。


普段人目につかない、隅の方でも、何かが動いてる気配。お店というのは、常にそういう感じがある。そういう感じのお店が好きだ。


客の目に付く表舞台の部分と、裏側の、楽屋とか物置とか控え室とかの部分。そういう二重構造の、物と人との組織体。


その上を、季節とか、寒暖とか、人の気配があったり無かったりとか、そういうものが通り過ぎていく。車に乗ったり、船で旅行したりするのと同じで、たまに同じ店を訪ねたい。その不自由で、充分にかまわない。充分にかまわないなんて言葉ある?


変わりばえのしない、あなたはいつもそうだ。でもそこがいい。