浪曲


80年代半ばは、都はるみの全盛時代で、僕は小学生だったけれども、「アンコ椿は恋の花」「涙の連絡船」「北の宿から」「大阪しぐれ」あたりの曲は大体知っている。カラオケで字幕を見ながらであれば、たぶんその歌詞を曲に合わせて「読む」ことくらいはできるだろう、という程度には知っている。僕はカラオケには行かないが。


これらの曲は、すべて当時ミリオンセラーだそうで、ミリオンセラーという現象について詳しくは知らないが、おそらくそれだけの物量がはけるなら、購買層はほぼ全年齢にわたるのだろう。つまりおおざっぱに言って十代から六十代くらいまでが、多少の差はあれ、それぞれ満遍なくそれなりの数を買うからミリオンセラーになるのだろう。ただし上述のヒット曲はだいたい、かなり洗練された歌謡演歌という感じで、歌謡曲的・楽曲的クオリティみたいなものとしては、詳しくはよく知らないけどそれなりに高品質なようにも感じられるし、まあ、都はるみという歌手の技量は、これはやはり否定のしようも無いというか、ほとんどマシーンのような鉄壁な凄さであるとは思う。あと都はるみの外見も、ものすごい絶世の美人というわけではないと思うけど、なんとなく微妙に惹かれるような、ちょうどいい感じの、絶妙な感じで、こういうのがまさに、性別・年齢を問わない大ヒット型の典型ということになるのかしらと思ったり。


しかし「アンコ椿…」とか、少なくとも70年代初頭くらいまでの初期楽曲においては、演歌というよりも浪曲の香りがまだ濃厚に漂っているようで、このあたりはもはや、今の時代の「歌」としてはすでに滅びてしまった何かだろうな、と思われ、そこにもう一段階古い時空というか、想像できる過去よりさらに昔とされる層の気配が垣間見えているように思われる。


浪曲というものを、僕が今後の人生において、音楽として聴いてみようか、と思う日が来るとは今のところ思えないが、しかし少なくとも70年代初頭くらいまでは、普通に聴かれていた音楽ジャンルなのだろうとは思う。聴かれていたとはつまり、それこそ十代から六十代くらいまで?さすがにそれは無いかもしれないが、少なくとも当時の三十代以上なら、普通に聴いていたのだろうし、宴会などで歌わされたりもしただろうし、誰かの歌ってるのに手拍子したりもしてたのだろう。


なんか、それって凄くないか?やっぱり昔は昔だ。今とは違いすぎる。もう全然別の世界だし人間も別だ。ちょっと、わかりあえそうに無いわ。と、今更のように思った。