痛覚


採血で、注射針が腕に刺さるときと、あと抜くときの、あの痛みは、痛覚というものをサンプルとして小さく取り出したようで、血液とあの痛みは常にセットになっていて、しかし痛みへの恐怖感や不安感が胸の鼓動や息苦しさに直結していて、そのような複合的な異常状態のなかにいると、普通に痛みだけを感じることは難しい。それでも注射針は、やはり抜くときが、もっともその痛みの質感を味わえるように思う。痛みに塗れたその内側から、冷たい物質が皮膚に接触して移動するときの冷たさのようなものが中核にあるのを感じ、それ自体は、物体が移動する感覚でしかないのに、周囲の痛感神経が火の付いたかの如くカッと熱く反応して、全体を麻痺に近いくらいの感覚的なMAXに押し上げる。仮定の話だが、もしあの注射針が五メートルくらいあって、それが体内を移動するならその痛みには耐えられない。でも異物が体内を移動する冷たい感覚は何の変哲もない。神経だけが騒ぐ。そして、そのことだけに耐えられないのだ。(麻酔してから、失血での自殺する人っていないのかしら。)痛みとはそのようにしていつも厄介であり、痛みの特長として、ほんの少しの痛みでもそれ自体はもの凄く痛い。というのは、大便がほんの少量でももの凄く臭い。というのと似たところがあり、そこにはおそらく性質としてなぜか似たところがある。