Close To The Edge


その後、ひたすらイエスばかり聴いている。聴いてないときでも、Siberian Khatruが延々頭の中で鳴り響いて片時も止まらない。なんてやかましいギターなのだ。粘りがあるのにきびきびと歯切れの良い、このギタートーンはほんとうに最高だ。いいかげん、そろそろ耳から出血しそうだ。


Progeny: Seven Shows from Seve Box setは、CDだと14枚組というものすごいBOXである。7箇所のライブ実況盤で、どの公演もセットリストはほぼ同一である。


これらの7つずつ収録されているSiberian KhatruやI've Seen All Good PeopleやClose To The Edgeをひたすら聴く。その後、義務付けられているかのようにスタジオ盤の同曲も聴く。Close To The Edgeはやはり、どう考えてもスタジオ盤が完璧すぎる。でもだからこそライブテイクがこれだけあることが、不完全なClose To The Edgeというものが存在しているということだけで、ありがたくてそのことをほとんど拝みたくなる。


アルバムとして収録されたスタジオ盤のClose To The Edgeの、とくに前半の、とくにイントロは、ほとんど奇跡ではないか。


四つの楽器の、バランスといい音質といい各動きといい流れといい、呼吸の度合い、距離の取り方、重なり方、離れるときの余韻、なにもかもが良い。良いというのはどういうことなのか、ここで何を良いと言うのか、何か草叢のような、ざわざわとした、おそろしく細かい単位で風に草木が揺れているときのすべての音が拾われたかのような、音というよりも振動というか、粒子の出来事を、視覚的に聴いているというか、とにかく聴いているという感じではなくなる。何度聴いても、そのときにもの凄い出来事が起きていると思うし、それがどんな出来事なのかまるでわからない。


完璧なスタジオ盤に較べると、それぞれのライブテイクはまったく聴いてしまえるレベルのものでしかない。いわば、何が起きているのかはっきりとわかる。でも、それはそれで、やはりいいのだ。聴いてしまえるというのは、やはり素晴らしいことだ。聴いても聴いても遠ざかるような音楽が、そう何曲もあるものではない。ライブで演奏されたClose To The Edgeではむしろ、そのアンサンブルを聴いていて、こんなに単純に作られているのかという驚きが常にある。いや、やってることは超複雑で、とてつもない超絶技巧だというのは誰だってわかることだが、それでもこんな単純な、それがギターとベースとドラムとキーボードだけで出来ているということに、あらためて驚く。その構造が根元まで丸わかりに見えてしまっている。そして時として荒っぽく、かなりバンドっぽい。というか、各自好き勝手にやっているだけで、聴いていてとても疲れると言えば疲れる。イエスとはそういうバンドだ。しかしそれだからこそ、たまに異常に聴き倒したくなる。