雪夫人絵図


昭和三十年代の小さな住宅のことを考えながら、溝口健二「雪夫人絵図」をDVDで。久々に溝口作品を観た。わりとこじんまりした感じながら、とても良かった。1950年(昭和25年)の作品。旧華族木暮実千代が住まう別荘が舞台のお話なので「当時の日本人的な小さな住空間」は全く出てこない。横の線と縦の線で構成された日本家屋を背景にして、溝口健二に特有な、ずるずるずるっと横への移動、いや横というよりは、左から右にかけて、戸惑いながら、未知へ向かうかのようにして、やや斜め下の方へ、という感じの人物の動きが何度も出てくる。それにしても、この別荘は最高だ。あんなキレイに湖の見える旅館の部屋が、ほんとうにあるのか。泊まったらいったい、いくらするのか。始終金のことばかり気になる。芦ノ湖でのロケも最高。モーターボートのシーンすばらしい。京都とかでの養子婿の放蕩もいい感じ。木暮実千代もこの人ただのおバカさんかな?という感じもするけどいいぞ。そして終盤の、芦ノ湖山のホテル。すすきと霧。早朝の庭。木暮実千代がテラス席に腰掛けると、それに気付いた給仕が出てくる。何かお持ちしましょうと声を掛けて、一旦屋内に入って、お茶を持って戻ると、木暮実千代は既にいない。その一部始終を、俯瞰視点の遠い距離からカメラは観ているのだが、木暮実千代がどこへ消えたのかはわからない。すべてがこの世の出来事ではないみたいな、これは掛け値なしにすばらしいシーン。