樹木


私が樹木を見ている、樹木も私を見ている、それどころか樹木は、私のことを、深く激しく愛している、身を焦がすほどはげしい感情で、私を見ている、しかし私は、目の前の樹木が、それほど激しい思いを内に秘めていることに気付かない。私と、只の樹木。だから私は、その場を立ち去る、樹木は取り残されて、深くかなしむ、力を合わせて大きな目標の実現を成し遂げることも、最低限やっていける程度に支えあうことも、どちらもうまくいかなかった、あなたが、何を言っているのかわからなかった、あなたも、私が何を言っているのか、おそらくわからなかった、だからこうして、別離へと向かった、しかしそれはほんとうか、あなたが、わたしが何を言っているのか、ほんとうにわからなかったのかを、わたしはわからない、わたしはわたしの考えたことしか、わからない、だからきっと、あなたもそうだろう、そう考えるのが妥当だろう、しかしそれはほんとうか、私はあなたを、図々しいとか、恥ずかしいとか、うらやましいとか、申し訳ないとか、うしろめたいとか、かわいそうとか、あわれだとか、お前ばかり得しやがってとか、そうは思わない、そう思えるほど、あなたのことをわからない、その共感はなりたたない、だからきっと、あなたもそうだろう、そう思うのだが、くりかえすけれども、わたしはわたしの考えたことしか、わからない、ここは愛なき世界、かなしみなき世界だ、あなたと私の頭の上に、同じ神様は乗ってない、別々の神様も乗ってない、頭の上には、何もない、足元の共有スペース、これを維持するため、掃除や修繕の仕事の必要性は?いえ、それも必要なかった、取りくむこともなかった、何もかもうまくいかなかった、私の中にあるこの感情は、かなしみと呼ばれるものとは違うのかしら、何かもっとべつの、今まで名指されたことのないものではないのかしら