誰もが、雪が降るのを心のどこかで楽しんでいるところがある。黒い夜空からあの毛綿のようなものが降り落ちてくるのをいつまでも見上げながら、この寒さのなかに我が身のあることを、まるで汽車のように身体の内側から健気に発熱していることを、なぜか愉快に思う。歩道の植え込みにも店の看板にもタクシーの屋根にも白く雪が積もって、アスファルトの路面は黒々と濡れた部分と白い部分とが掃き散らされたようになる。そして喧騒が消え、全体にミュートがかかって、道行く誰もの聴覚が失われる。聴こえない音を見ている。