大竹伸朗「全景」(東京都現代美術館)を観る


まず感じるのは、やはりこれだけの物量の作品が作られていてしかも、どのようにしてか判らないが、作品として保存・管理されていて、普段は雨ざらしであれなんであれ、いざ展示となったら、一挙に会場に集約させて来て、このようなかたちで展示させてしまえる力がすごいと思った。かなり東京から距離をおいた場所に制作拠点を構えているとはいえ、これらを保存・管理することのコストは相当すごいだろうけど、運搬して展示するのだって、ものすごいお金ではないのか?ただ作り続けるパワーもすごいけど、やはり然るべき場所に展示することで、はじめて美術作品となるような作品も少なくないため、余計にそういう「作家として展示を成立させるために蓄えられたパワー」がすごいと思った。というか、そのパワー自体が、作家である事を成立させてる印象さえある。



昔から、大竹伸朗の作品には惹かれていたので、今回はかなり期待していたのだが、期待どおり素晴らしい作品群であったと思う。ただ、作品数が常軌を逸するものすごさであるため、一人の作家の展覧会としてはちょっと経験したことの無い感覚を味わった。それは次々に現われる作品を目にするたびに、うぉ。いいなぁ。と思うその観る喜びの感覚自体がインフレを起こし始めるというか、決して退屈してはいないが、絵画を観て、良いと感じられて沸き起こってくる気持ちの良い感覚自体が「グリップ力」を失くし始めて空回りしはじめる感じ。とでも言えば良いか。まあ単にくたびれたという事かもしれないが、ただ気を引き締めなおしてもう一度観ると、やはりそれはとても良い絵だなーと思われるような画面があらためて目の前にあるので、その事で、またいつまでも観続けながら、また呆然とする。という感じ。


まあでも、これだけ良い絵が、これだけ沢山あるのだから、これはやっぱりものすごい事なのではないか?と思いながら、果てしなく続く展示を観続ける。ヘンな事を考えているようだが、日本の中に、どれだけ美術作家が居て、どれだけの美術作品があるのかわからないしそれの全容も、絶対知る事はできないのだが、でもこの大竹伸朗という人は、美術作家としてまあ「日本最強」かもしれないなーなどと思う。「日本最強」の意味がわからないけど…。


日本という国で、絵を描く事がが好きで得意な子供が成長して、日本で入手可能な様々な美術に関する情報(…情報を入手する場所としては、世界的に見てもめぐまれている環境としての日本および情報を一覧的に収集する事が好きな特性を多く持つ日本人…)を、興味の赴くままに取り入れて(もちろん周辺の音楽やサブカル的情報も含み)、で、美大に行きイギリスに行き周囲と共闘しつつ、自分が持つパワーで可能な限りやってみて、そういう「作る自分」の総力戦として最大の回転数で飛ばし続けた結果が、この展示のようにも感じられる。そういう意味での「日本最強」感を感じる。「日本・現代・美術学生の覇者」という感じか…。


広いロビーで、作家本人に拠る生演奏が30分ほど繰り広げられた。作家自身に拠ってリモート操作される自動演奏オブジェと、ギター大竹伸朗ひとりの演奏。左右2セットの、2段積みマーシャルアンプから、東京都現代美術館で聴いた事のある音量としては破格のボリュームで、激しい即興演奏が行われた。ボリュームフルテンのマーシャルの前で、微かな甘い匂いと共に空気が震える感じを味わうのは超・久々だ。演奏は非常に上手い。ツボを抑えたファンキーなノイズサイケという感じ。フレーズに60年代的ブルース臭が漂う。この辺世代を感じる。大竹伸朗の足元で操作されてるペダルはワーミーペダルで、これは結構効果的に、ヒステリックなノイズを出せる便利なエフェクターなので、全編ややこれに依存しすぎな気がしたが…。しかし、何をやっても実に「上手」だと思った。


カタログは6,000円以上するが予約した。12月上旬の発送だそうだ。買わなかったがショップで2年前のBase GalleryにおけるOn Paperのカタログを見る。(今回の展示には含まれていない)これも実に素晴らしいものであった。


この展覧会は、可能なら(その気を失わなければ)期間中にもう一度くらい訪れたい。