「Costume」Brandon Ross


コスチューム


寒くなってきた。この、冬の入り口に差し掛かる季節というのはなかなか良い感じだ。奥から引っ張り出してきたファンヒーターに点火すると、久々に熱を加えられた筐体が、低く唸っているように感じられる。内部や温風吹出口に一年分堆積していて、掃除で取りきれていない埃が焼けて不完全燃焼するときの独特な香りが、部屋を満たす。冬の匂いだ。


外に出れば、え?っと驚くほどの冷気が体を包む。真冬の寒さと較べればまだまだ過ごしやすいのだろうけれど、それでも迫り来る真冬の、張り詰めた空気の到来を予感させるには充分なほどの鮮烈な寒さ。その空気を切り裂くように早足で歩く。僕は昔から、こういうときナルシスティックな自己陶酔を微かにおぼえる癖がある。外海を静かに一直線に航行する船のような自分を想像していい気分になる。その妄想はあほらしいことだが、でも、外海を静かに一直線に航行する船自体が美しいのは、間違いないだろう・・?


白いアスファルト上をまばらに人が行きかう。いつもの見慣れた景色だが、いつもとは違うような景色。でもそれでいて、毎年冬になるとこういう感じだよなあと感じられるほどの既知感。電車の座席の異様な暖かさ。駅の前でたむろしている高校生たちが、水鳥の群れのよう。


路面がところどころ、黒く濡れている。雨が降っている。冷たい雨。用事を済ませてから一旦戻って、髪を切りに再び外出。まだ夕方の4:00なのに外が暗い。「なんかもう夜みたいですねー」と店員。「もう店じまいって感じだねー」と僕。「はは。それならいいのになー」と店員


・・・で、今日はこれを聴いてましたってことでBrandon Rossだ。普段はあまりにも「かっこ良過ぎ」かつ「硬派」な感じでなかなか聴けない(生活環境下で、これを聴きたくなるような瞬間がなかなか訪れない)のだが、今日のこの、冬の入り口に差し掛かる季節を飾るサウンドとしては最強であった。弾かれたベース弦からの音振動が、空洞内を深く深く共鳴し、ハイハットを細かく震わせるほどの、恐ろしく濃厚な低周波の広がりとなってあたりを満たし、擦れと音の中間に位置するようなギター弦の操作が、かろうじて旋律と呼ばれるような方向をたゆたう。凍て付く、冬のジャズだ。ビールとかじゃなく、別にアルコールじゃなくても何でも良いから、とりあえず今、暖かいものを飲みたい。と思ってるときの感じに似てる。録音がとても良い感じなので、良いスピーカーとかヘッドフォンで聴くことをお勧めする。