デジタルハイビジョンテレビを買うか?


師走の慌しさに翻弄されてるなんて全くみっともない。僕はいつでも自分らしく悠々と…などという姿勢とはまったく無縁なのが現状で、いま完全に師走モード。もはや自分という存在自体が慌しさそのもの。といった体でばたばた移動したり音高くキーボード叩きまくったり電話の相手にキレかけたりどかんと一挙にメール送信して直ちに逃げ帰ったりする毎日である。ああ師走の人。季節の上で死滅する人々から遠く離れた身であった筈なのにこのザマだ!…で、そんな自分にアタマに来ていたので腹いせに、というか間違った!みたいな感じで魔が差した!とか誰とも知れぬ何者かに言い訳をしつつ薄型のでかいテレビを買っちゃおうかと思って家電量販店に行く。


暑い夏の日差しの下、青い空と青い海である。限りなく透明に近いブルーの波間をイルカの群れが泳ぐ。水上のクルーザーに搭載されたカメラは、太陽の日差しが降り注いできらきらと光る海水のうねりや波の飛沫を、ものすごいハイスピードで一挙に後方に置き去りにし続けながら直進するイルカの傍らを、同じスピードで併走する。イルカの艶やかな背中に水面に浮かぶ波模様の網の目が、太陽の光を受けて木漏れ日のようにゆらゆら形を変えながら流れていく。


…そんな映像が、売り場にざーっと並んだ画面ひとつひとつに、キレイに同期した状態で足並み揃えて再生されている。おんなじ映像内容だから各商品の表示結果の違いがよく判る。確かに微妙に違っていて、値段が高いのはそれなりにキレイなようにも見え、一台だけやけに安価なヤツはやはり1ランク下の画質のようにも見え、でもそれら全てがそうでもないようにも思える。


…しかし実際、こんなイルカの背中の肌理の細かさを較べて最高の一品を選んだとして、それが最高の画質をゲットした事になるんだろうか?僕のうちには、こんなイルカとランデブーな映像コンテンツなんて無いし。(劣化した60年代ビデオ撮りジミヘンステージ映像とかだし)・・・というか、そもそも「最高の画質」なんていっても、こういう並列させて各映像表現の差異を比較するとか、よくあるパソコンのベンチマークみたいなスペック競争は現実的にはどうでもよく、自分が普段見たいものや既に所有してるコンテンツやなんかを考えると、なんだかなーとも思った。


…なんて言いながらも、やはりこれだけの大画面にこれだけの情報量が一挙に動く体験のショックは相当のモノな訳で、その事は素直にすごいと思う。画面内すべてに異様なまでに焦点が合っていて却ってこの世のものでは無いようなイメージを現前させるという意味で、ハイビジョンというもののすごさは否定し難い。まあそこを生かしきったコンテンツが世の中に出揃うのは、まだこの先けっこう時間が掛かるのだろうけど。


むしろ別のことが気になっていて、もしこれ買ったとしても、部屋に対してあまりにも存在感あり過ぎだとなんか豪華家電一点主義な人みたいでイヤだけど、買えば結果的に絶対そうなるなー。とか、まさか玄関のワクを入りませんといったような「事故」の可能性はないのか?とか、あと「重さ」が気に掛かって、30kgというのが僕がひとりで持ち上げられる重さなのかどうか?が気になってしょうがなくて、そこをインターネットで調べはじめる。この場合、「(いろんな意味で)僕もしくは僕に類するような人物」が、「重さ30kg前後のものを持ち上げている」ないしは「頑張ったけどムリ」みたいな…インターネット上に浮かぶそういう事例の調査である。世界にはこんな事を調べモノする人も居るのである。…インターネットがあって本当に良かった。…というか、良く考えたら忙しくてこんな調べ物してる場合じゃないはずだと思ったし、そもそも家電屋行ってる場合でもないのであり、更に付け加えればこんな文章書いてる場合でもないと思った。