「百年恋歌」


ホウ・シャオシエン監督 『百年恋歌』 [DVD]


DVDにて。60年代のパートが大変素晴らしかった。殊に冒頭のビリヤードのシーンは、大変含みと奥行きのある、たっぷりした余裕の構えで、ほとんど出来事らしい出来事は起きていないかのようで、でも実は瞬間瞬間に確実に何かが揺れ動いているような、簡単には言葉にできないような「ダーク」で「スロー」で「濃密な」素晴らしい時間が流れていく。


ちょっとわざとらしすぎるくらい強烈に降り注ぐ日差しの下では人もモノも皆白く吹っ飛んでいて、ビリヤード台の置いてある小屋は全然別の厳しい暗闇と光のコントラストが横溢しており、前景だけまるで油絵のような濃い画面になっている。単純にこの美しい撮影の成果を眺めているだけで満足感を感じられてしまう。


河を波飛沫を上げて進む粗末な船の素晴らしい移動、バイクの移動…やっぱ60年代と05年は、移動がある事が面白く感じられた理由だと思う。05年なんかは、如何にもな感じの粘着的な暗さも酷く荒んだスー・チーの顔のドアップが繰り返されるのも陰鬱でちょっとげんなりするものがあるが、しかしグァーっとバイクで移動してくれるだけで若干救われるような気持ちになる。


1911年のパートだけ派手な移動はなく、室内に薄暗い空間にランプが灯されるだけで、しかし明け方のような夕暮れのようなほんのりした明るさの元で静かに進行する。サイレント映画の手法なので余計に静謐だ。手紙とかメールの文面(紙面やモニタ画面)がそれぞれのパートに共通してあらわれるのだが、要するにこの映画では文字がいっぱい出てくるのである。それを読む作業が多く、ちょっと面白い印象である。


で、1911年は静謐なのだがしかし物語の最後のところで、辛亥革命という一発が配置される。(それが勃発した、と文字で伝えられるだけで物語の世界は特に変化がないように見えるが)映画としてはこれを挟んだカタチで、ここからの台湾の彷徨する過程をあえて前半分と後ろ半分に配置したようにも感じられた。…でもまあ正直言って、こういう構成というか方法がすごく効果的に感じられた、とは云えないのだけど…。あと音楽もやや微妙に感じた。かなり開き直ってベタに盛り上げている感じである。まあ全編、所々不安定に音が遠くなるような途切れるような頼りなげな効果が掛かっているように聴こえ、全て05年のスー・チーの部屋にちょっと出てきたDTMソフトからの音源だったのでは?と思わせるような感じもするが。