「おとうと」


おとうと [DVD]


岸恵子川口浩の掛け合い漫才みたいな軽快なやり取りはなかなか良い感じだ。弟のような年下の、他愛も無い内容で気兼ねなく軽口を叩けるような対象を相手にした女性の表情や仕草。岸恵子のそういう芝居を堪能したいならこれ!って感じだろうか?田中絹代とか森雅之とか大御所が出てるからそれをありがたがるのも良いだろう。


僕など恥ずかしながら市川崑という映画監督について(意識的に観たのが)ほぼ初体験という状態なのであまり色々書けないのだが、本作に関しては少なくとも、物語自体は実に他愛もないものだが、たくさんの細部にうーんやはりこれはすごいなあと思った。刑事役のヤツとか工場で働くややオカマ気味のヤツとか、脇役がかなり良い味出してるし、縁側に置かれたハタキの異様な赤さやこぼれて飛び散ったインクの赤や、並んでランニングする学生たちの体操服の異様な白さ、あとアヒルとかも…。そういう小道具やエピソードもエピソードに終わらない強い印象を残すし、特に後半の舞台が結核療養の病室に移ってからは何だかわからないが圧倒的にすごいと思った。川口浩の衰弱していく感じも良いし、…何よりも良い仕事をしてるのが、やはり脇役の医者と看護婦である。医者の異様に茶ばんでいてほとんど金髪に見える髪とか、職業人としての意志は感じられるもののどうも人間らしくない雰囲気とか、あと看護婦の江波杏子が素晴らしいですねえ。。ちょっとした行為の重ね方がが実に細かくて観ていて嬉しくなった。電灯の笠に暗幕をかけて、その後壁に掛かってる何かをちょっと手に取るとか…っていうか細かい事は忘れたけど、そのちょっとした行為が今のショット全体で何の意味があるの?といいたくなるような事をちょっとだけやるのがとても良い。顔も美しくて、川口や岸とのやり取りもすごく良い。川口にねだられて、仕方なく結婚の盛装で現れる岸の姿よりも余程素敵なほどである。。


ばちーん!とスポットライトを上から浴びせて強烈な(しかし裏側に何も無いような)暗黒と飛んだような白を浮き上がらせる独特の映像はやはり息を呑むほどのすごさ。最後のご臨終の瞬間など、ほとんどカラヴァッジオみたいな事になっていた。カメラマン宮川一夫