大島弓子を読む


大島弓子の漫画を今まで一度も読んだ事がなかったのである。なので、本屋の漫画ばかりで占められたフロアをぐるぐると探してみたが、見つからない。何となく気後れしながらも思い切って「すいません大島弓子っていうひとの本ありますか?」と聞いたら、メガネの女性店員に「…あー…大島弓子…ちょっとお待ちください」とやけに真剣な感じで対応され、その店員さんは身じろぎもせずにそのまま検索画面かなんかをじーっと見ているので、こっちもその場でレジ脇にあるボールペンとか何かを見ながら黙って待っている。


しばらくして、急にレジからさっと離れて、どんどん歩いていくので僕も少し距離をとってついて行ったら、本棚のある一角を凝視していて、しばらくしてから「…申し訳ありませーん。ここにある三冊だけですね!!」といって指さしたところには、確かに大島弓子と書かれた本の背表紙が並んでいた。「あ、ども、ありがとうございます」といって、それをちょっと見た。絵の感じはなんというか、如何にもな感じで、うわーとか思ったのだが、とにかく、前知識も何もなく、よくわからないので、ひとまず出直そうと思って、買わずに立ち去る。


それから2、3日して、その事を思い出して、妻に「おまえ大島弓子読んだことある?」と聞いたら「持ってるよ」というので驚いた。で、その後、妻が自分のモノ入れの奥から、文庫本サイズのやつを5〜6冊くらい出してきた。そんなの持ってるなんて今まで全然知らなかったぞ!でも妻曰く「あたしもずいぶん前に読んだだけで、正直全然おぼえてない」との事。「大島弓子読むのー?いまからー?」となぜか嘲笑気味な感じで云われる。


それで昨日から「つるばらつるばら」を読み始めたのだが…こ、これは…という感じ。ああ、そうかそうなんだね。という感じ。…こういう物語が、これまでの世界の中の一部の人によって、確かに読まれてきたという事実は、或る意味とてつもない奇跡かもしれない。それこそが希望かもしれませんね。…しかし僕はこれらに縁がなく、36歳にもなって、ようやくこれらに巡り会い、はじめて読んでいる訳だ。もう何年も前からウチにあった本なのにねぇ。それって、きっとやっぱり不運な事なんだろうと思った。っていうか、選ばれなかったという事かもしれないとすら思った。でも今、この年齢になったからこそ、わかるんだと感じる部分も多い。