蓬莱閣


店内全体が冷蔵庫であるかのような、容赦のない冷房の冷却度合が素晴らしくて、着席するやいなやすべての汗や脂質や体温を根こそぎ奪い去ってほしいと心から願う。まるで夏休みの大学の大講堂みたいに、だだっ広い店内に整然とテーブルが並べられており、客はまばらで、ランチタイムの華やぎや騒々しさとは無縁の空気に満たされており、エアコンのゴウゴウ云う音だけが残響と共に広がっていて、点在する客どもは皆、結構な頻度で中国娘のウェイトレスをデカイ声で呼び、昼から紹興酒や何とかサワーのおかわりをたのんでる昔ながらの荒くれ不良老人たちで、僕はとりあえず、年季の入ったテーブルのうつくしい塗装のかすれを見つめているだけだ。まるで中国映画のワンシーンのような…などという月並みな言葉がぴったりの雰囲気。運ばれてきた料理を食べ始めると、右手にもつ「れんげ」が皿にあたって、かーんという音が店内全部に響き渡った、かのように思えた。