蚊取線香


ここ数日の朝夕の涼しさが素晴らしくて、夕方からはたびたび窓をあけて窓際に座っている。これを書いてる今もそうで、ときおりすーっと涼風が吹きいってくるのを体に受けているのがとても気持ちいい。冷房をまったく使わないで一日中過ごせて、ときおり涼しさがふっと舞い込んでくる事で、自分の体の表面に冷ややかさがはしり、それまでうっすらと汗ばんでいた事にはじめて気づくような、愉悦度満点な、夏の終わりの季節である。


ところが困ったことに、涼しさと一緒に蚊も到来してきたようで、気づいたらあちこちをやられていた。なので今日、蚊取り線香を買ってきて、今それを焚いているのだが、この香りの何と懐かしいことよ。効能云々以前に、単なるお香としてくゆらせておきたい感じの、いいにおいである。


蚊取り線香の匂い。今、足元で焚いているときの匂いも良いが、さっきまで蚊取り線香が焚かれていたと気づく程度の、薄っすらと残り香の漂う無人の部屋というのも良い。というか、線香に火をつけるときの匂いが、すでに良い。煙草を吸わなくなって何年もたつので、マッチとかライターとかの、火の匂いを間近で嗅ぐ機会がとんと減ってしまった。なので、着火したときに鼻腔の奥を突き上げてくる強い刺激臭とか漂う炭化臭の、その火の匂いを嗅ぐのが、とても新鮮なのだ。


そういえば今年はまだ花火をしてない。っていうか、何年もしてないけど。花火がしたいと一瞬だけ、思う。単に火薬の匂いが恋しいという感じで。