唇が荒れて、カサカサになって皮がところどころぼろぼろ剥けてくるくらいな状態になっている理由はビタミン不足かホルモンバランスの悪化かそれ以外のメンタルファクターか、はっきりとはわからないのだがとにかく手当たり次第に手を出す様々な薬は期待もむなしくすべてが焼け石に水で、唇の乾燥は留まるところを知らずひたすら乾き、まるで薄いパイ生地を繊細に重ねた焼き菓子をさくさくと砕くかのように、薄い表皮が断片となって脱落して落ち、あるいはかろうじてへばりついてぶら下がったまま、ひたすらガサガサの荒れ果てた風景を展開している。。しかしその荒涼とした唇の、ほんの少し内側の、薄暗く体温で暖められており唾液と呼気で湿ったまま下の前歯に密接している内側の一角には、勢いよく広がり育ちはじめた、まるで噴火口のような、巨大な口内炎がぱっくりと口をあけている。ガサガサと荒れ果てた唇の表皮と、境界線をせめぎ合うかのように、その火口が外側にまでせり出そうとして盛り上がっている。ガサガサの砂漠と、薄暗い湿原の、その領土を争う戦いが日夜繰り広げられており、驚くべきプレート・テクトニクスのダイナミズムが炸裂している。できれば唇ごと取り替えたいくらいだ。F1マシンがフロントウィングを取り替えるみたいに取り替えられたら良いだろうな。取り付けて後で角度だけ微調整できれば。
