「年を経た鰐の話」


家から歩いて10分くらいのところに図書館があるので、たまにそこに行く。先週は妻が一人で行って色々借りてきたようである。今日は朝起きて、その借りてきた本の中から「年を経た鰐の話」レオポール・ショヴォ(著)、山本夏彦(翻訳)、というのを読んだら、これはものすごい傑作だったので感動した。とにかく、文章が凄すぎる。あまりにもうつくしい。文章を読む、ということの愉悦間の一番きもちいい感触が慈雨のように降り注ぐので、それを嘗めるかのようにゆっくりと味わいながら読む。ここ最近、年老いていくことに関して一定の関心がずーと自分の中に持続しているけど、そういう部分を強烈に刺激するような、老境の境地というか、人間の心の様相の臨界地点というか、すべてが終わったところからようやくつむぎ始められたお話、という感じ。。何しろもう、生きてても死んでてもどっちでも良いような状態で、法も道徳も倫理も完全に遥か彼方に置き去った状態から始まって、血縁も愛情も紙くずのように無残に吹きちぎられ、あての無い放浪と、ただ果てしの無い退屈と、にがい涙と、本能的な欲望だけがある。…というか、もうそういう言葉を書き連ねててもまったく意味が無い。別にそういうお話がどうこう、という事ではないのだ。こんな説明で、あのひんやりと冷たい、まるで爬虫類の表皮の如くさらさらと無機質に乾燥したあの感触を再生できる訳が無い。…もう午後になってから、図書館に行って返却してしまったので、今ここに文章の一部でも引用できないのが残念だ。これはすぐに買う。