「The Visitor」


Visitor


終日、家で読書したり音楽を聴いたりする。外はとても良い天気で、もう結構ですよと言いたくなる位さわやかで気持ちの良い気候だ。そしてキンモクセイの香りも、もういくらなんでもやり過ぎでは?と思わざるを得ないほど、かぐわしい。世界全体がトイレの芳香剤にまみれたかのように、キンモクセイの香りに満ち溢れていてものすごく激しい幸福感がばりばりだ。


Jim O'Rourkeの「The Visitor」を聴く。全1曲38分4秒。なんかびっくりするくらい、今までと変わってない。まったく同じことの続きをしているのだろうか。というか僕にとってのJim O'Rourkeが「Eureka」とか「Insignificance」の印象が強いので、それ以外がどのような感じなのかあまりよく知らないところもあるが、でもそれらと地続きで繋がっているような感触。とはいえ、それが悪いか?といわれれば悪いわけがなかろう、と答えるのみ。これは至福のひとときだ。ギターが爪弾かれる瞬間の、何事かが震えだす瞬間の心の揺れのようなものが切なくも愛しく、そこに向けてずっと息を潜めて待つような音楽体験。アンサンブルが最大の音量で強く打ちならされたときの、あの音そのものの質感が目の前を横切って通過していくときの、その目を見張るしかない感じ。それは別に、決して目新しいものではないのだけど、でもそれが目の前を横切っていくときの瞬間だけは常に新鮮で、それに対してそっぽを向くことはいつになっても難しい。そっぽを向こうと努力したことも今までの時間の中でなくはないのだが、でもそれももう忘れておきたいことでしかない。…音楽って、こんなにありふれたつまらない音の集積でしかないものなのか、でもそれと同時に、音楽ってこれほどいつでも新鮮に、まるで今生まれたばかりのように鳴り響くことができるものなのか。音楽は不思議だ。音楽は不思議さそのものだ。