七五三


快晴の日。降りそそぐ光の明るさ。強い日差し、光それ自体の、まったくそれ自体であることの意味のなさ。理由のなさ。ものすごい無内容。馬鹿馬鹿しいほどの幸福感。内容の空虚それ自体の驚くべき充実!その恩寵!祝福…ああ神様!!…見よ、前方に親子あり。目の覚めるような若草色の着物を着た女の子とお母さんが二人連れ添って歩く図也。幸せの構図也。七五三也哉。輝かしい幼少の日々よ。かけがえのない思い出よ。母と娘をモティーフとした太古のうつくしい一枚の絵よ。磐石たる過去よ。そうか、お前たちは境内に行く前に鳥居の写真を撮るのか。ははぁ、さては鳥居にまかれた純白のしめ縄を写真に収めようと云うんだな。思い切り背伸びして、両手を真上に伸ばして、デジタルカメラを空に向けて、上を向いたまま思い切りアゴを突き出すようにして、そうやって慎重かつ真剣にカメラのフレーム位置を決めているのだな。おそらく鳥居に巻かれた純白のしめ縄をうつくしく思って、それを撮ろうとして、爪先立ちで思い切り背伸びしているんだな。嗚呼、本日は実に御目出度き七五三なりや。我確信せり。七五三はしきたりに非ず。人が居て、人によって形づくられるもの也。神社の境内に着物を着た女の子とお母さんが二人連れ添ってやって来て、そのときこの世にはじめて七五三、忽然とその姿を現すもの也。二人連れ添ってやってくる親子の、まったくの無内容無信仰無目的それ即ち奇跡也。自分で考えてる事のあまりの馬鹿馬鹿しさに呆れて思わず笑ってしまった。蕎草舎にて鴨せいろと蕎麦粥とビールで膨れ上がった腹をさすりながらやや酩酊しつつ帰宅。