空きテナント


夜の暗闇に沈んだガランとしただだっ広いフロア。ネオンやビル照明によって、窓際の一角だけは青白く薄ぼんやりと照らされている。僕はそのフロアを施錠されたドアのガラス越しに見ていて、もしあのフロアの向こうに、白い服の女性とかがいきなり立ってたら、身の毛もよだつほどの恐怖を感じるだろうと想像していた。そのような幽かな存在がもしそこにいたら、それはあまりにも全体の雰囲気にふさわしいと思われた。というか全体の雰囲気が、そこに白い服の女性が登場するための万全の準備をしているかのようなので、その意味ではもう既に、そこに白い服の女性は現れているのかもしれず、いわば内実として存在しているのではなく、外実として存在しているのかもしれなかった。というか、外実という言葉自体が、おそらく存在しないのだと思うが、しかし外実という存在しない言葉に空気圧を送り込まれてふわりとしたふくらみをともなうかのようにして、その女性はたしかに僕の視界の向こう側にいた。