那須連山


深い青にところどころ鋭く光の差し込まれた陰鬱な色合いの空と、那須連山の黒々とした山並みとの境界線の鋭さを、雲がところどころにぼかしのように挿し挟まっていて、あの空と山並みの感じは、一体この場所から距離でいうと何十キロ先に存在している出来事なのだろうか?とも思うが、いやあれは距離で測れる場所に実在する出来事ではないのだという当然の事に気づいて、しかし依然として僕は目の前の景色を見ていてながら、いま見えているものは、必ずしも実際に起こっている出来事ではないというのは、ある意味凄いことだとも思った。まして、自分が窓から見下ろす視界の真下から遠くの山並みへと至るまで、一面どこまでも無色な、冬の樹木が広大な面積いっぱいに広がっているので、その広がりにはまったく遠近感も中心も細部もなくて、ただの芒洋とした広がりとしか云いようが無いのだが、それもそれで、実際には驚くべきことで、よくよく考えてみれば、ただの芒洋とした広がり、などというものがこの世に実在する訳が無いだろうとも思われるわけで、もし今、ここにある景色を芒洋とした広がりと呼ぶのであれば、それはもはやすでに芒洋とした広がりではない何かであると考えたほうがよく、少なくとも目と意識の行き着く先が当面見えない状態のこの事態をなんらかの出来事を見たというべきでは無いと判断した方がまだ前向きな姿勢と云えなくもない、などと考えてもみた。