勧誘電話


勧誘の電話がかかってきて、はい、はい、ええ、あ、はい。いやでも、あ、はい。でもとりあえずウチでは、はい。とりあえず結構なんで。ええ。ええ。はい。と言って断る。一応、言葉遣いや声色は普段どおりで対応したが、でもそういうときはたぶん、ああ面倒くさいな、厄介だな、長くなったら嫌だな、早く切りたいな、という気持ちが、言葉の端々にあらわれてしまうのだろうと思う。逆に電話をかける方としては、そういう風に、ああ面倒くさいな、厄介だな、という気持ちが、受話器の向こうにいる相手の言葉の端々から伝わってくる事はしょっちゅうだ。相手のネガティブな感情を充分に感じていながら、気づかないふりをしつつ、言うべき事を言わなければいけないのが、私たちの仕事なのだ。でも実は、今回の電話に関しては、あまりしつこくしなくても良くて、相手からとりあえず少しでもネガティブなニュアンスを感じた時点で、あまり執拗に粘って対話を継続させず、むしろわりと淡白に話を終わらせてもいいよ、という作戦で今回は進めるのだと指示を受けているのだ。相手の言葉の端々に、ああ面倒くさいな、厄介だな、というニュアンスを感じたら「それではどうか宜しくご検討下さいませ。本日はこれにて失礼させていただきますが、もし何かございましたら、いつでもお問い合わせ下さいませ。それでは失礼いたします。貴重なお時間いただき誠にありがとうございました。ごめんくださいませ。」と言って終話する。そのとき、意外にもあっさりと電話を切られたほうとしては、やはり軽く驚く。あれ?これで終り?意外と聞き分けがいいじゃん、と思い、こんなにあっさりと終わる話なら、こんなにも身構える必要もなかったなと思い、ああもしかすると、たぶん、ああ面倒くさいな、厄介だな、長くなったら嫌だな、早く切りたいな、という気持ちが、言葉の端々にあらわれてしまっていたかもな、と思う。そのあとでかすかに、ああ、ひょっとすると相手に悪いことをしたかもな、もうちょっと普通に対応してあげれば良かったかもな、とも思う。