夢を見ているが、眠りから浮上してくると同時に夢が廃棄されて、どんな夢だったのかは起きた時点でもうわからない。というか、わかろうとするほどの説得力を欠いた淡いものでしかない。そこに夢があったという事だけは確かなのだが、ある出来事の連鎖があったというイメージではなくて、そこに何かがあったという物理的な事実のようにして残っているというべきか。


ぼんやりとした頭のまま、時計を見ても眼のピントが合わなくていま何時なのかよくわからず、眼を瞑って、ふたたび眠ってしまう。あけた窓からすずしい風がずーっと入ってきて、肌にあたるその感触があまりにも快適で、半覚醒状態をしばらくたゆたった後で、眠りの方へと落ちて、しばらくすると回復し、また眠り、というのを何度も繰り返す。


そのたびごとに、夢の生成と開放が繰り返されたようだが、そこでの全内容を、きれいさっぱり、僕は忘れている。しかしおびただしい量の出来事を経験したことはたしかだ。後になって、それを参照しようとして、ふいに胸の張り裂けるような悲しい気分に襲われもするが、それも一時のことで、とりあえずめぼしい箇所は一巡してみたが結局なんのイメージも得られず、ところどころにみすぼらしい残骸だけがあって、もはや全てがこわれてばらばらの紙片になっているのを不思議な気分で見ているような。