揺れ動く


目の前にある机上のものが、今、すべて、静寂のまま、みうごきひとつせず、ずーっと静止している。それは、当たり前のことだ。しかしなぜ、それを不思議な事と思うのか。それをじっと見つめている自分が、身動きひとつしていないから、むしろそれが不自然で不思議に思うのか。自分がかすかにでも動けば、机上のものすべても動くのかもしれないが、それは結局自分が動いたという事の事後的な確認ではないか。そうではなくて、机上のものが動き出すことを見るのは可能だろうか。かりにそれが、現実に起こりうるのだとしても、動きの只中にしかいない自分とは、永久にすれ違うだけなのかもしれないのだが。


でもよく見ると、ペットボトルの中の水ががゆらゆらと微かに光を反射して、ゆらゆらとした動きをいつまでも続けてはいるのだが。しかしなぜこのゆらゆらは、いつまでたってもおさまらず、いつまでもゆらゆらし続けているのだろうか。これは机上にあるものが動いているのでもなく、僕が動いているのでもない。たぶん、このビルが揺れているのだ。高速道路をトラックが走ったり何万人もの人が歩道を歩いたりしているので、その振動が、このペットボトルの中の水のきらきらした反射を、静寂の中いつまでも絶えることなく揺らし続けているのだろうと思う。というか、もしそうでないのだとしたら、じゃあどこが揺れているのか。千代田区が揺れているのか。地球が揺れているのか。もし、そうだとしたら、そのゆらゆらした揺れはいつまで経っても止まらないのだろうと思い、そう思うと少しウンザリ感がたちあがってくる。