電車に乗ってたら、突然雷鳴が轟き、空が暗くなり、雨が激しく降り注ぎはじめた。映画のロケのシャワーみたいな豪雨だと思って見てたら、みるみるうちに、そんなレベルをはるかに超えて、すさまじい勢いの降りとなった。ほとんど怒りを感じさせるかのような、感情を丸出しにしたかのような雨。地面や屋根や看板を激しく叩き砕け散る白い水飛沫。窓の外は水の激しい流動によってほぼ何も見えなくなってしまった。車内の誰もが、まるで電車の洗車場に入ったみたいだ、このままでかいブラシが窓をこすりながら通り過ぎて行くに違いないとか何とか、口々に感想を言い合っていた。僕も、乗車口の真下まで水が溜まっているような状況で車両がモーターボートにように飛沫を上げて疾走するイメージを想像してしまった。ただいま大変雨が強くなっておりますという女性のアナウンスが聞こえ、ああこの電車は若い女だったのか、まるでこの事態に直面して戸惑い気味の、電車自身の素朴な声を聞いたようだと思った。次の駅に停車して、ドアが開くと、車内の中ほどに坐っている自分の位置まで、雨の飛沫なのか気温によって蒸発しようとしている水分なのかが、ふわっと細かな粒の感触となって、自分の顔や首元にまで感じられた。