水溜り


約束の時間にまだ15分ほど早かったので、玄関の前で待った。九月半ばとなってもいまだ日差しは相変わらず強かったが、日陰に入るとやり過ごせる程度には気温も下がっていた。ポケットの中の名刺入れを確認して、重い鞄を手にぶら下げたまま、濃い緑の木々が生い茂る山々をぼんやりと見ていた。近距離の山々の、肉眼ではっきりと確認できる起伏の感じはすごく生々しいというか、物質のボリューム感が強く感じられた。木々に覆われているので地形としてのあらわれではないにも関わらず、だからこそむしろ隆起の度合いを強く想像させるように思えた。こういう隆起に自分の身体を直に這わせてみたいというのが、人を登山に向かわせる欲望なのかもなあと思った。それでふと自分の立っている地面に目をやれば、アスファルトの敷地内のところどころに、おそらく朝方まで降っていたであろう雨によって出来た水溜りがあって、その水面は庇によってさえぎられた日陰と日向によって、まるで黒と白のように二分割されていて、白い日向のほうには秋の青空がくっきりと写りこんでいた。秋らしいかすかな風が吹くたび、水溜りの水面は神経質なほど細かな波紋をたてて写りこむ青空を震わせた。