つり革や手摺り


左手でつり革に掴まって、窓の外を見ている。右手で握っていた手摺りの持つ位置を替えて、冷たい部分を選んで握りなおす。ガラスの向こうの暗闇に、ビルの窓の光や店の看板の光や車のヘッドライトが次々と流れ去っていく。それに重ねて、黒く影になった自分の背後に写った、蛍光灯の光に照らし出された車内の様子を重ねて見ている。反対側のドアの脇に立ってる女の長い髪や、座席に並んで座っている乗客たちのうなだれた様子に、高速道路を走る車のヘッドライトが重なる。いくつもの光の線が他人の身体を突き抜けて流れていく。夜の闇。ヘッドライト、看板、蛍光灯の光。電車が減速して、身体が進行方向へぐっと引っ張られて、手摺りを持つ腕全体を固くして耐える。つり革に引っ掛けている指の第二関節を少しずらして第一関節にしてみる。しっくり来ないので輪っかをぐるっと回して、もう一度持ち直す。