手続き


吊革に掴まる。電車が動き出す。じょじょに傾斜がきつくなる。車両が完全に上を向く。足が床から離れる。体重の重みが腕にかかる。全員が、腕一本で吊革にぶら下った状態。あちこちから呻き声や苦しげな声が聞こえる。なおもゆっくりと、電車は容赦なく登る。頂上に辿り着いて、今度は下る。その後ジェットコースターのようにものすごいスピードで急降下した、という話をこれから、書くのか。途中で手を放した。そうしたら一気に、僕は空中に放り出された。地上数百メートルの高さを、手足をばたばたさせながら、僕は放り出されている。そうか、いよいよ死ぬ、と思った。自分の身体が落下する。何の支えもない。今、落下している。容赦なく加速する。空気を切り裂くすさまじい轟音が耳から頭の中をかけめぐる。すさまじいスピード。轟音。これから死ぬ。地面が近づいてきたことが音の変化でわかる。落ちる瞬間がやってきた。いよいよ着地だ。死だ。落ちた。がーんと鳴って、いつまでも終わらない。鳴り響いたまま、ずっと音が持続している。身体の半分以上が割れてしまったような気がするが、よくわからない。乾いた砂場に寝転がっているような感じ。ふとして、また空中にいることがわかる。浮かんでいる。そしてその直後、再び地面へ。がーんと打ち付けられて、もう一度着地した。一度落ちて跳ね返ったらしい。これでようやく着地した。でも身体の感覚が戻らない。どうなっているのか。まだ一つながりの肉体組織なのかどうかもわからない。音が、まだ鳴っているような気がする。いや音が鳴っているというより、自分の耳と脳が損傷しておかしくなっているのだろう。たぶん身体のほとんどが壊れたはずで、情況を調べることもできないが、とにかく今時点でついに僕は落下した。地面に落下したのだ。すでに着地済み。もう、どうしようもない。これで終わりのはずだ。死んだのかどうか、今はまったく実感はない。この後、たぶん手続きがあるのかもしれない。いまは何もわからない。音の感知機能が壊れたので、さっきから着地のときの音が、ずーっと近くで鳴りっぱなしのまま、鳴り止まなくて、すごく苛々する。それ以外に今、何がどうなっているのか、まったく認識できない。でもなんとなく、この後も色々と面倒くさそう。誰か係りのヤツとかが来そうな感じ。たぶん窓口係に説明とかして、なんかわかり辛いフォーマットの申請書とか書いて捺印して、この後、結局はしかるべき施設に収容させるとか、せいぜいそんな感じかもしれない。超つまんねーじゃん。面白くないな。どこへ行っても楽じゃないし、手続きとかばっかで、本当に面倒くさい。