グラスの底


ぐっとあおって、グラスに残った酒を全部飲み干す。そのまま両目を寄り目にして、口元にあてたグラスの底をじっと覗く。底のガラスの湾曲した光と影の世界に自分全体が入り込んだような気分になって、なおもそのままじっと、目でうねうねした模様を見続ける。ガラスの表面を流れてゆらゆらと濡れた景色が歪みながら下へと垂れ下がるように落ちていく。それを観ながら口元からまだグラスを離さないままで、じっと止めていた息をふーっと吐き戻す。鼻先に自分の息がふわっと戻ってくる。つまらなくなって、おしまいに、もう一度グラスをふっとあおる。一滴にも満たない、かすかな量の酒が舌先を濡らす。