牡蠣が食べたい。なぜそう思うのですか。ミネラル類のせいです。亜鉛などを含んでいます。自然そのままの香り高さ。牡蠣という食物を、はるか昔から、これほど多くの人が好んで食べてきたという事実に、私は驚かされる。これを人類は、私の生まれるもっと前の、何百年も何千年も前の、はるか大昔から、好んで食べてきた。欧州で生食されてきた数少ない食物のひとつ。登場から今に至るまで、ずっと第一線で活躍してきている。牡蠣。そう。これほど複雑な味わいの食物が、これほど広く、大昔から、万人に受け入れられているなんて。牡蠣料理。その古典的であり、原理的な姿。牡蠣を食べれば、それで人間が欲する味覚、香り、歯触り、舌触り、滋味、抵抗感などのほとんどすべてを体験できるはず。土に近づきたい。鉄分を口にほおばりたい。石を噛み砕きたい。炭の匂いを吸い込みたい。牡蠣それは、まるで、ぬめりをもった塩のようでもあり、かつて生命を有していた土のようでもあり、時間を逆行してきた鉱物のようでもあり、あるひとかたまりとして、かろうじて形象化した海水のようでもある。海水に含まれているカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、鉄分、石灰。それらすべての、お祭りのように海水にたゆたいながら、柔らかい牡蠣の身を少しずつ形成し、表面に沁み込んでいく、口に含んですぐ鼻の奥を通って頭頂まで突き上げるような、その香ばしさ。