今日の、外を歩いているときの、気温や日差しの過ごしやすさ。とくに夕方以降の、日が落ちてからの、ほんとうならもっと底冷えするような冷たく尖った大気が肌を刺すはずが、不思議とあたたかみがふわりと地面から昇ってくるような、まったく涼しくて乾燥しているのに、身体が冷えることも乾燥することもなく、ほんの少しだけぬくもりをたたえた薄手のタオルケットに全身を包まれたまま、力を緩めた状態でふわふわと歩いているような感じで、これはほんとうに、おそらく一年のうちでも、今くらいしか味わえない感触だろうなと思いながら歩いた。なぜか足立区は、今日が花火大会をやっていて、雷のような破裂音が聞こえてきて、時折遠くの空が明るく光り、位置によっては、ばばっと滑らかに開いた明るい光の輪が、空に広がるのが見える。自分の後ろで、男女が「あー花火。」「あー花火やってる」「あーー」と感嘆の声。ほんとうに無防備な、ただひたすらあーっと驚いて、力なくため息のように漏らされた声。情けないような可愛いような、それだけの声。「あーー花火。」花火が見えるというだけで、今が十月という現実はかなり後方に下がってしまって目立たなくなり、どうにも夏らしさの記憶が妙な居心地の悪さで、はっきりと間違った感じで気まずく再生されてしまって、今この瞬間の、秋の如何にもな、さらさらと冷たくも快適な感触とはまったくそぐわないようなこの目の前のすべてというように思えて、むしろあの光は、遠くのパチンコ屋のネオンか何かだと思い込んでおいた方がまだ納得の安定を得られて凌げるようにも思う。