朝から、中途半端な天気。夕方から借りてきた「ゴダールリア王」を観る。これはなんとも、さっぱり出鱈目な感じな印象だったが、しかし、全体的にかなり、八十年代的なオシャレ感がすごいというか、なんか…これはカッコ良かった。主人公の男が、ああいうヘアスタイルにジャケットを着た感じが既に80年代的なシド・ヴィシャスというか、既にカッコいいし、女優はモリー・リングウォルドだし、澄ました顔の、頬っぺたの赤い、普通にかわいい感じも、ゴダール自身の悪ふざけ的に頭にケーブル類をぶら下げてる感じも、火を起こしたり、緑色の虫取り網がふわっと広がって頭にかぶさったり、フィルムがずるずると伸びて地面にこすれたり、なんかやけに楽しげな、そうか、つまりはこの当時は、こういう感じだったのか、と思った。パチパチと燃える派手な線香花火みたいなヤツをレストランのテーブル上で付けるとか、まるで一昔前のテレビドラマみたいで、ちょっと笑ってしまう。森の中を何人かが駆け巡るシーンなんかはすごくカッコいいけど、これぞまさにこれ以降の、それこそ沢山の映画で、幾度となく見たような。


リア王」を作る、という事と、それとは無関係な事と、無関係なことが関係しているような感じの事とが、合わさって…いや、合わさらず、あくまでも別々に、無関係に繋ぎあわされて、色々な人の、色々な出来事であると同時に、「リア王」そのものみたいな、「リア王」の引用そのものでもあり「リア王」の一部がそのまま丸出しになってもいて、しかし「リア王」の台詞の一部が何度も反復されてしまうと、それはもはや「リア王」の台詞から浮かび上がってしまって、モリー・リングウォルドの心の中の言葉そのものにもなり、モリー・リングウォルドの表情とべったり密着していき、画面の向こうから光りが差してきて、手前が暗くなるような空間の中の、女性の横顔そのものに貼り付いて、再生されていた音楽は突然スローダウンして、最初と同じ言葉が繰り返され、またゼロからやり直しみたいになって、何もない原っぱに誰かが突っ立っている。白い馬の唐突にもふくよかな、白い横っ腹が、まるで魚のふくらんだ腹のように輝かしく、しかし結局、最初から最後まで、何のことやらさっぱりわからないままだ。