横光利一の本を買おうかと思って調べたら、作品のほとんどが青空文庫に入っているので無料で読めるのだ。それで、これまでほとんど使ったことがなかったiPhoneのアプリのkindleに「春は馬車に乗って」をダウンロードしてみた。で、読んでみたら、これは素晴らしいかも。ささやかな短編という感じで、病気の奥さんを看病する話で、けっこう痛ましく悲痛な話のはずなのに、不思議な軽快さがあって、他の作品もそういうところがあるように思うが、語られていることのなかで、比重の色合いや、密度が、本来ならこうなるだろうと想像されるような感触と、微妙にしかし過激にずれているような印象がある。でも意図とか作為性みたいなものもない。とにかく重くない。文章一個一個が立っている。曲に例えるなら、コテコテのメロウなバラード的なやつだと思って聴いたら、気付かないくらいの微妙さだけど、じつはかなりファンキーにリズムがきざまれているので、情緒性や感傷性に流れ去ってしまわず、手堅くきっちりとシャレた感じにまとまってる曲、みたいな感じだろうか。いや、出だしはちっともメロウなバラード的なスタートじゃなく、ぽつんと一個だけの音から始まっていくから、どういう意図で何を書こうとしているのかもしばらくしないと見えないようなスタートの感じもまたいいのだ。


あと、kindleなかなか気に入った。これはこれで、けっこういいかも。iPhoneだと画面に十行あまり表示されるのを次々とめくっていく感じだから、読むリズム感が本の1ページとくらべると相応に忙しない感じにはなるかもしれなくて、とくに短編を読んだときの印象だと、特有の影響はあるかもしれないが、でもそれはそれだ。というか正直、青空文庫の横書きになってる書式だと僕はちょっと気になってしまうところがあるが、kindleなら縦書きなのでこれなら全然オーケーかも。


午後から久しぶりに水泳した。泳ぐなんて、死ぬほど面倒くさいと思っているのだが、でも最近の肩が痛いだのあそこが調子悪いだの言ってる自分に対して、それは要するに運動不足で体力不足だからごたごた理屈言ってないで運動しろよともう一人の自分から言わざるを得ないので、あーめんどくさ、と思いながら出かけた。出かけたら着替えてプールに入って泳ぐしかないのだ。でも久しぶりだし、ぼちぼちでいいと思って泳ぎ始めたけど、プールって混んでるときと空いてるときがあって、今日はたまたま空いていて、コースがクリアな状態だと周りを気にしないで済むし、いつもよりもたくさん泳いだ方が得だ、みたいなセコイ計算が働く部分があって、結局がっつりと1000Mいった。年末からの肩と二の腕の痛みはまだ残っていて、相変わらず重いものを持ち上げたりする動きは厳しいのだが、泳ぐ動作にはまったく問題なかった。でも全身のところどころ、ああ筋肉使ってないなーと感じられた。着替えて、建物を出たら冬の空気の冷たさが全身を包んで、そしたらこれが、泳ぎ終わって着替えて出てきた直後というのは、体温もまだかなり高いので、思わず笑い顔になってしまうくらいの気持ちよさ。いやこれはちょっと、近年感じたことがないくらいの快感に浸っている状態と言って過言ではない。わー、こんなに気持ちいいなら、もっと毎日のように泳げばいいのにと思わざるを得ない。髪なんかまだ少し濡れているから、それが冷えて頭部全体が冷たくなっていくのだけど、それも死ぬほど気持ちいい。たぶん、脳内の快楽物質がばーっと溢れている状態に近いかもしれない。家に帰ってからもしばらく暖房も入れずにそのまま過ごした。一時間くらいして、ようやく普通に寒くなってきた。