二年半ぶりに三重県志摩市へ。入院した父親と面会する。その後、色々と面倒を見てくれた親戚のSの家にお邪魔する。今までもこれからも、お世話になりっ放しで平身低頭の体だが、すいませんすいませんばかり言ってても何もならないし、とにかく久しぶりということもあり、色々と話した。昔からの知り合いであり、話せばいくらでも話せるような相手で、でもこんなに話をしたのも、いったい何年ぶりだろうかというほど。僕の父親というのは、ある意味「寅さん」的な色合いがあり、もちろん現実にああいう人間がいるというのは、周囲からしたら、本来ならあらゆる意味で痛ましく厳しいことであって、しかし身内として、あえて勘違いや妄想でもかまわないような、もしや何がしかの我々だけに許された希望とか喜びもあるのかもしれず、しかしいずれにせよ、その相当キツイ部分の方への対処を、このSは、本来なら実の息子である僕が担うべき立場であるのに、それにかわって今までもずっとその厄介さを担ってくれているというのがあって、でもそれは彼が優しくて献身的であるということでもあるけど、それをしてくれるのは彼にとっても、ある思いというか、自分なりの考えがあるのだというのがあって、そういうところをけっこうしっかりと話すことができて、会えて良かったと思った。ご家族の皆さんとも久しぶりに会って、久しぶりにゆっくりと話す。夕食をご馳走になって、その日は泊めてもらう。Sのこの家は、父方の親戚の中で僕にとってはもっとも思い出の残る家で、子供の頃は夏休みになるたびに休み期間中のほぼすべてをこの家で過ごしており、僕にとっての夏休みとはすなわちこの家で過ごし、SやSの兄たちとともに周辺の海に行ったり駄菓子屋だの魚市場だの釣具屋だのプラモデル屋だのに行ったりすることだったのだが、今こうして、この家の布団で眠るというのはおそらく、この自分の生涯のうち、始めの方と終わりの方で、みたいな言い方をしても大げさにならないかもしれないくらいに、そのくらい久しぶりのことなのであった。もちろん当時と今では、家の中の感じがずいぶん変わっているのはあたりまえのことで、昔は家主である爺さんと、Sの父親と母親、Sを含めて三人の男兄弟がいて、夏休みになれば、僕の家族すなわち父親母親と僕と妹が行って、広い家なので部屋数も多くて全員寝泊りできた。爺さんはたしか僕が小学一年くらいのときに亡くなり、Sの父親も僕やSが中学生くらいのときに早くに亡くなって、その後、時は経ち、兄弟の上二人は既にどちらも東京に家庭をもっていて、母上と共にこの家に残ったSが、結婚してこの家に家族で暮らしていて、奥さんと三人の子供たちがいて、上の子は中学三年女、真ん中が六年生男、下の子は小学校一年生女。だからここにはもはや僕が子供の頃にみた何かはほぼ無く、見ようと思えば見られるだろうが無理に見ても意味はなく、しかしSの子供たちが力強く何かを反復しているようで、この場と時間は、僕ではなくまさに彼らのものであった。下の子の愛くるしくて人懐っこい子で、ほとんどせつなくなるほどの、いとおしくも可愛い子であって、あそぼうあそぼうとせがまれて夜中まで一緒に遊んだ。家の主人で父親であるSと奥さんと、三人の子達の、家庭というのは、人間のなんと美しいまとまりであるものだろうかと、静かに揺さぶられるようなものがあった。あとネコがいた。可愛いやつだ。しかしまったく人になつかないやつだった。