湿気


風は台風っぽい感じの、ぬるくて分厚くて空気全体が攪拌される感じで音高く吹いている。よく晴れた暑い日だがその風のせいでさほど暑いとは思わないで歩いていられる。散歩がてらふだん利用しない数キロ先にある別の路線の駅を目指して歩く。途中でぽつぽつと雨が降ってきて、小さな傘を挿すが、何度も風にもっていかれそうになって、そのたびに閉じたり開いたり、もう面倒くさいからいいかと思って傘をしまおうとしても、さすがにこのままだとベタベタに濡れるのもね、ということでまた挿す。


で、駅近くにあるでかい釣具屋に入って、来週の苗場用に、防水加工された帽子と折り畳み椅子を買う。子供時代を除けば、僕はふだん帽子をかぶらないし、一つも持ってなかったので、これが人生初帽子である。本当は前別の店でみた、ベトナムの農民みたいな形のやつが良かったのだが、まあなんでもいいやと思って買った。帰り道は早速その帽子をかぶった。家の近くにきて、雨も多少小降りになってきた。交差点で信号を待ってたら、がしゃっと何か物音がして、何かと思ったら、斜め向かいで自転車に乗って信号待ちしていた爺さんがなぜか転んで道にひっくり返っていた。走行中に横転とかではなく、停止した状態で転んだようだ。しばらくぼけーっと見ていた。爺さんはゆっくりと自転車を立て直して起き上がろうとして、なぜか上手く行かずやはり再び地面に転がるので、信号が青になったので爺さんの方へ向かって歩く。自転車を起こしてあげて、大丈夫です?と聞くと、あー大丈夫。すいません、と返事があって、ぶわーと甘い匂いが漂う。まだ昼の二時過ぎなのに、そこまで泥酔するかというくらい猛烈に酒臭い。自転車に乗らないで押して歩いた方がいいですよ、と言って立ち去る。


家に着いて、濡れたものを着替えて、シャワーを浴びたあと、我々も早速飲み始めた。