MM21


会社を出て歩き出す。思ったより寒い。路面が濡れている。濡れたまま、冷たく固まろうとしている?そして、あ、白い粉。舞っている。ひとつかふたつ。もっとそれ以上ちらちらと、ゆっくり降り落ちてくる。傘はないし、かまわず歩くことにする。横浜まで三十分かけて歩くのも最近の習慣になった。歩きながら、みなとみらいという場所の酷さというか、貧相さをつくづく実感する日々だ。というかこれは場所とはいえない場所だ。これは少なくとも、外ではない。単なるオフィススペースの延長というか、居室というか、エリアというか、工事中区画というか、そういう場所だ。たぶんここには、過去の歴史がなくて、だから他人の記憶の痕跡がない。それだと、歩いていても空間内を移動してる感じがしないものなのか。そういうものなのかもしれない。というか、これこそがほんものの、均質化された抽象空間なのかな。とにかくぜんぜん面白くなくて、これだけ移動しても、これだけ面白くないという事実そのものが、かえって面白いのかもしれないとさえ思う。高級車の販売店がいっぱい並んでいるが、こんな場所でほんとうに物欲を保てるのか、何千万円とかの支払いのモチベーションを維持できるのか、私の象徴世界イメージを支えられるのか、他人事ながら心配になる。払うに値する何も見えない。埋め立てただけの地面にプレハブ立ての小屋があって、その中に置いてある高級車と自分のお金とを、交換するのか。すごい。子供のお店屋さんごっこみたいだ。まあ、自分がそんな人間と全然無縁だからそう思うだけだろうけど。