フレンチ、ホルモン


正午を少し過ぎたくらいに広尾の店に着くと、店内は誰もおらず客は僕一人だった。窓が開いていて快適な風がかすかに店内に入り込んでくる。バイザグラスで、けっこうたくさん飲みますとあらかじめ伝える。フランス料理は結局、最高に美味しい酒のアテだなとあらためて思う。しかも古来の日本的な感覚、すなわち寿司とか蕎麦とかだと、さっさと食って呑んで早めに帰るのが、まあ無難な作法とされがちだが、フレンチとかだといくらでも何時間でも浪費していいよ、あなたの時間と金が許すなら別にいつまでもそこにそうしていてもこちらはかまわない的な感覚があるように思われ、そこも嬉しいというか助かる。何を食べたかよりも誰と食べたかが重要だというのはそのとおりだが、たぶんそれは誰かと時間を共有することの価値であって、あれを食いたいと思ってすぐその店に行ってそれを頼み、ひたすらそのひとときをいつくしむとしたら、それは一人での行動でなければほぼ無理というか、どこまでも個人的欲望に根ざした行為なので、フレンチフルコースといえども結局一人になってしまう。しかし休暇日の昼だし、天気は晴れているし、これで良いのだ。完璧な二時間あまりだったではないか。この店は三年ぶり二回目。前も同じような季節で、あのときの夏メニューに再会できて良かった。夏の店みたいなイメージを勝手にもっている。ほかの季節にも来たいが、再訪はいつになることか。


帰って、とりあえず水泳。泳いだの、十日ぶりくらいじゃないか。こんなに間が空いたのは去年以来はじめてかも。


夜は友人と待ち合わせて二人で西日暮里のホルモン屋へ。ここも久しぶりに来た店。僕が行きたいとリクエストした。どの部位ならどのくらい火を加えるとか、そういう細かいことを友人が異様によく知っている(週一くらいで来てるから)ので、その知識を借りて食したかった。レバ、ハツ、白モツ、ミノと定番な部位がたしかにうまい。が、まあ、やっぱり脂っぽいというか、そうたくさんは食えるものではないというか、これこそ仕事帰りとかにさっと食ってさっと帰るためのものだなと思った。しかし今日みたいにだらだらと、店内を煙が濛々と舞って所々薄くなったり濃くなったり、まるで飛行機が雲の中を飛んでるみたいな、向かいにいる友人の顔さえ霞むようなものすごい状態なのをぼんやりと見上げているのも、なかなかいいものだと思った。