ベイビードライバー、ひと夏のファンタジア


新宿バルト9エドガー・ライト「ベイビードライバー」。まさか2017年にもなって、ジョンスペンサー・ブルースエクスプロージョンのBellbottomsをこれほどの疾走感と高揚感のなかで再び聴く日が来るなんて、まったく予想していなかった。この映画の冒頭10分は、少なくとも僕がここ数年、もしかしたら二十年近く観てきた色々な映画のなかでも、突出して凄い、あまりにもすばらしい冒頭10分だったのではないかと言いたい気持ちがある。


なにしろ、曲がいい。選曲がセンス良くてどうのこうの、みたいな意味では全くなくて、ここで選ばれたすべての曲が、誰かから熱く愛されているというか、すべての曲が、映画を愛しているかのように聴こえてくるというか。とにかく愛のある完全な幸福感がみなぎっているのが凄い。


少なくとも前半部分は、掛け値なしに最高である。ひたすらわくわくする。


主人公はサンプラーで使うために普段から録音機で色々録音するのだが、ヒロインの子が録音機を口元にあてて歌いながらはじめて自分の名前を言うところとか、いきなり感動するし、というかヒロインの子もかなり音楽好きっていうところがいいのだが、T・REXがこんなにいい感じに聴こえるなんてどういうことかと思うし、パンク周辺あまり詳しくないけどダムドこんなにカッコいいのかと思うし、クイーン、、しかもよりによってブライトンロックだなんて、マジか(感動)とか、コモドアーズのチャチな感じがこの映画においては逆に崇高な輝きを放つなあ、とか、いくら書いていてもキリがないが、それらの音楽のあらゆる良さとか惹かれる部分が、一々丁寧に枠で囲まれて、全部映画の中に割り付けられているというか、映像に対して音が伴奏されるのではなくその逆の状態、すなわち音がすべての上位にある状態で、でも一応物語としては主人公がその音をイヤホンで聞いている一部始終としての世界なので、そのあらゆる出来事が音楽と完璧にカッチリとはまっていて、そのための徹底的な作りこみがいちいち目を見張るような感じだ。


そのぶん、ユルさとか曖昧さみたいな要素は皆無なので、ややぎっしりとし過ぎていて疲れるというのはあるかもしれない。とくに後半の銃撃戦はあまり良いと思えなかった。いや、細かい部分ではかなり心踊る仕掛けも多いのだが、しかしやや腕力で押し過ぎというか、目まぐるしさが勝ちすぎというか、爽快さが後退して少し息苦しいものになってしまっているような印象を受けた。というか銃声の音というのはあまり音楽的じゃないというか、一瞬たしかにいい感じでシンクロする場面もあって、おお!と思うのだが、最後の方はちょっとくたびれてしまう感じ。物語も、最初もしかしてこんな感じかな?と予想したら、思った以上にその方向の、いかにもな感じだったので、そこも、うーんという感じであるが、などとマイナスに感じた部分もないことはないが、しかしやはり面白い。面白いところだけを何度も繰り返し観続けてしまえば、それだけで満足という感じだ。「ラ・ラ・ランド」よりも全然いいとは思うが、でもこういう風な徹底的に作りこんだ世界というのはたしかに「ラ・ラ・ランド」との共通性も感じさせるし、もしかすると「ラ・ラ・ランド」的な映画の隆盛が「ベイビードライバー」のような映画を生み出したとも言えるのかしら。製作された時期とか全然よく知らないで適当なことを言うが。なにしろ、娯楽作の流行りの形として、こういう感じのものが今、受けているのだとも言えるのかも?


帰宅後、ツタヤで色々借りてきた中からチャン・ゴンジェ「ひと夏のファンタジア」DVDを観る。


映画監督が通訳の子を連れて奈良県の田舎町を取材する前半部分と、旅行者の女の子が一人で奈良県を訪れて、その場で出会った男としばし行動を共にする公判に分かれた構成の映画。つまり前半で取材した監督の撮った映画作品が後半の部分そのもので、通訳をやっていた子が主演を演じて、取材のときに話を聞いていた市役所の男性が映画に役者として出たんだなとわかる。もちろんすべてが虚構なので、すべてがそのような映画作品ということになる。まあ構成が面白いとか言うよりも、結局観ているその出来事そのものが面白いかどうかだよな、とは思う。この映画では、主人公の女性がかなり魅力あるので、その良さだけで最後まで楽しく観れてしまうという感じだった。僕はまあ、前半も後半もこんなことありえないわなーとか思ってしまうのだが、そこは人それぞれ、違ったことを感じるだろう。