傘よ


傘、先週行った店に聞いてみたら、その日忘れ物はなかったとのこと。かなり予想外。だったら、いったいどこへ置いてきたのか。というか、もう何の心当たりもない。これであきらめがついた。あの傘はもうこの世に存在しないものとみなす。


下っ端は下っ端の苦労があり、偉い人は偉い人の苦労がある。どちらがどちらかに従属しているとか、そういうのは本来幻想だ。役割でしかないのだ。時と場所が変われば、皆が、よるべない。お互いに素顔を見合わせるばかり。こういうときに、いつもの調子で横柄な態度をとる奴は、そういうのがまだ有効であることに賭けて開き直ってくる奴こそは、ほんもののばかだ。お前こそがこの世の迷惑。早いところ、つまみだしてやれ。


傘は何処へ行ったのか、だなんて、それはもとより自分の考えるべきことではなかった。傘には傘の目的があった。たぶんきっと、彼ははじめから、僕の所有物ではなかった。