保管箱


三十年前に他校の文化祭に行った記憶があり、友達の家に行った記憶があり、国分寺駅で乗り換える記憶がある。二十年前に、ある公園にいた記憶があり、バイト先にいた記憶があり、帰り道を歩いている記憶がある。そして十年前に、旅行先でバスに乗ってる記憶があり、映画を観ている記憶があり、犬が死んだ記憶がある。これらの記憶は保管箱に収納されている。保管箱は三列で棚は年月を経る毎に上段に追加される。保管箱の耐久力は怪しくて次第に老朽化してくるので、同列に積み重なっている記憶同士が浸潤し合う。つまり三十年前と二十年前と十年前のそれぞれの記憶が、たまたま縦の同列に収められていると、それぞれ少しずつ混ざり合う。時間の古いものほど混合度合いが高い。最下層の方だと、ほとんど御祖母さんの代から漬けた梅酒みたいな状態になっていて、もはや原型は留めてないに等しいが香りは良い。