クリスチャン・マークレー展

東京都現代美術館へ『クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]』を観に行く。

クリスチャン・マークレーは、まずミュージシャン(ターンテーブル奏者)としてシーンに登場し、これまで誰もやらなかった表現形式での「演奏」を行い、その衝撃は大友良英らにも影響を与えた。改造ギターとターンテーブルを使った大友良英のパフォーマンスを90年代初頭の自分が知ったときは、やはり強い刺激を受けた。

そのような「創始者」としてのクリスチャン・マークレーの偉大さはたぶん揺るぎ無いものだろうし、ターンテーブルとアナログレコードという素材を用いてこの作家が追いかけた問題は、たぶん今でも充分にアクチュアルなものだと個人的には思う。

とはいえ、この作家のキャリアは多岐にわたるし作品も多様である。今回の展示はおそらく本人の意向もしっかりとくんで、過去から今までの仕事をこのように見せたいとの意志にもとづいて選別、構成、セッティングされているのだろうとは思う。

そのことも踏まえた上での率直な感想として、この展覧会での美術家クリスチャン・マークレーの作品群に、自分はぜんぜん惹かれないな…と思った。なんか三十年前の美術手帳を見ているようだと思った。ほとんどじっくり見るべきものがないように思いつつ歩いていたら二十分くらいで出口に着いてしまい、このあとイベント開始までの時間を大幅に持て余してしまうことになった…。

∈Y∋(山塚アイ)によるボイス・パフォーマンスと、ジム・オルーク、山本達久、マーティ・ホロベック、石橋英子、松丸契による即興演奏のイベントがあるのを、先々週くらいにたまたま知って、予約したらうまいこと予約できてしまったので、この贅沢なメンバーによるイベントを幸いにも体験することができた。ひさびさに生でのライブを聴くことが出来て嬉しい。山塚アイは絶叫の裏声がキレイというか抑揚と差異付け、各声音それぞれの粒立ち感、まるで運動選手のようなしなやかさ。しかし前半でも後半の即興でも、最近の電子機材によるエフェクトの効果は、生音ときれいに混ざり合っていい感じの音になるものだなあと思う。繊細かつ精緻な山本達久のドラムも印象的だった。