喫茶店70's


鉄条網の結び付けられた木の柵が立ち並んでいる。向こう側は線路だ。油の匂いがかすかに漂っている。柵に沿って歩いていくと、駅が見えてくる。切符売り場があって、改札口の駅員がこちらを見ている。たぶん、70年代後半、実家の最寄り駅だ。僕は小学校の低学年で、まだ駅前にはほとんど何もなかった。タクシー会社の掘っ立て小屋と、菓子屋と、バス乗り場があった。西友もあった。砂利の敷き詰められた駐輪場に自転車が絡まり合うようにぎっしりと止まっていた。あとは、何もない地面の広がりだけだった。今より昔の方が、砂埃が濛々と舞っていたような気がする。色々なものが、埃にまみれてザラついていた。車が通り過ぎれば排気ガスと埃で視界が薄茶色に染まった。自転車のフレームも籠にも土埃が白っぽく被っていたし、窓のサッシもガードレールも触れれば手が汚れた。工事現場や空き地ではしばしば砂埃の竜巻が生じた。ズボンのポケットの中も裾も襟の隙間も砂や埃がびっしりと詰まっていた。靴下を脱いでさかさまに持てばザラザラと砂がこぼれた。すべてが砂まみれで埃まみれだった。しかし西友の裏手にある喫茶店の、タバコとコーヒーの香りに満ちた店内だけが、かろうじてそのザラザラした世界から隔たっていた。親に連れられてあの店に入ったとき、店内に立ち込めていた匂いを未だに思い出す。あの独特の感じは、最近の喫茶店にはもう無いものだ。